レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「相手の言うとおりにしましょう。警察なんかに連絡したら、リチャードがどんな目に遭うかわからないわ……だって、私があの場に行かなかったら」

 エリザベスの手が震えた。ダスティの言葉がよみがえった。
 キマイラ研究会は恐ろしい場所だと聞いている。秘密を知った者は、容赦しない。

 これ以上は誰も巻き込みたくないなどと愚かなことを考えていた自分を殴り飛ばしてやりたくなる。
 とっくの昔に引き返せない領域まで踏み込んでいたではないか。

 パーカーが便せんをそっと卓上に戻した。

「危険です」
「いえ、行くわ。だって、私の責任なんだもの。今日は仕事は休みにする」

 パーカーが何か言っているのも耳に入らない。

 仕事も休みにして部屋に閉じこもっているエリザベスのもとを、パーカーが訪れたのは昼食の時だった。

 トレイに軽食を載せ、部屋の扉をノックする。その前に白い錠剤を飲み込むのは忘れていなかった。

「お嬢様、せめてお食事だけはおとりになってください」

 かけていた部屋の鍵をマスターキーで強引にあけて、パーカーは部屋の中へと入ってくる。

「……出て行って」
「行きません」
 鏡台にトレイを置いて、パーカーはベッドの上で膝を抱えているエリザベスの側に近づいた。
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