レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「本当にお出かけになるのですか?」

 後部座席に乗り込んだエリザベスの隣に、不安そうな顔をしたパーカーが続いて乗り込んだ。

「当たり前でしょ。あなたが来なければ、話にならないんだから」

 エリザベスは、思いきりむくれた様子でパーカーに手をふり、それきり口をつぐんでしまう。何を考えているのか、隣で胃に手をあてている執事に悟らせるようなことはしなかった。

 ◆ ◆ ◆

 アンドレアス商会の事務所は、車で十五分ほどの場所にあった。事務所が入っている建物は、やや古めかしいのだが、場所を考えるとそこそこ賃料をとられるであろう。

 紺のジャケットによく似合うつば広の帽子を斜めにかぶったエリザベスは、車から降り立ってロイにこのまま待つようにと告げた。

「お約束、いただいていますでしょうか?」

 事務所の入り口を入ると、やたらに化粧の濃い女性秘書がエリザベスを止めようとする。

「約束はしていないわ。わたしはエリザベス・マクマリー。今すぐアンドレアスに会わせなさい。彼が会わないというのなら、今後の取引は全て……そうね、隣の事務所に任せようかしら」

 マクマリー商会は、一番の上客ではないかもしれないが、アンドレアス商会にとっては逃したくない重要な顧客のはず。
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