レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「破損して売り物にならない品、傷んで売り物にならない品が少し多すぎるのよね。いくら何でもおかしいと思ったわ」

「そ――それは……」

 アンドレアスの顔が引きつった。

「というわけで、取引をやめようと思うの。若造と思ってなめていたのかしら?」
「ち――違う――」
「ふーん。じゃあ女と思ってなめていた?」
「違う、そうじゃない――上からの命令で」

 組んだ足をぷらぷらとさせていたエリザベスは、動きをとめた。椅子の上で姿勢を正して、テーブルの上に身を乗り出すようにしてたずねる。

「上。つまりアンドレアス商会は独立しているわけではないと」
「……」

 アンドレアスは言葉を失った。にやりとしたエリザベスはアンドレアスに言い放つ。

「一回ボスとお話したいわね。連絡をとってちょうだい」
「……できないと言ったら?」
「まあ、いいけど。こことの取引を停止するだけだもの。ボスにも伝えてちょうだい。一回きちんと話をさせてくれるのなら、今回のことには目をつぶるって――というわけで、用もすんだし帰るわ。ボスによろしく」

 エリザベスの迫力に気押された様子のアンドレアスは、見送ろうともしなかった。ちょうどお茶を運んできた女性秘書に、「いらない」と告げると、エリザベスは身を翻す。
< 76 / 251 >

この作品をシェア

pagetop