レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「何が目的だったのですか、お嬢様?」

 帽子を手にしたパーカーが慌てて追いかけてくる。彼の手から投げ出した帽子を取り戻しながら、エリザベスは首をかしげた。

「うーん、藪をつついて蛇を出すつもりが、予想してないものが出てきちゃったって感じ?」

 建物から出てきた二人を見つけて、ロイが車を駐車した位置からクラクションを鳴らす。エリザベスが手招きすると、すっと車が近づいてきた。

「藪をつついて……」
「そう。まさか上からの命令、とか言うなんて思わなかったもの」

 けろりとした様子でエリザベスは続けた。

「取引停止をちらつかせて、今後、不正はしないって言ってもらえればそれでよかった。新しい代行業者がアンドレアスよりましとは限らないものね? 彼の仕事ぶり、なかなかだったのよ――取引を始めたばかりの頃は。その頃に戻ってもらえるなら、警察に言うこともないかなって思ってたの」

「ボスって誰でしょうか?」

 エリザベスは肩をすくめ、それから軽い調子で言い放つ。

「多分裏の社会に影響力を持つ人間でしょうね」
「……そんなやつに会いに行くのですかっ」

 パーカーは眉をつり上げた。

「大丈夫よ。アンドレアスを見てたらわかるでしょ? それほど危険ではないと思うわ――こちらが礼儀を守っている間は、ね」
「でも」

 続けようとする執事をエリザベスは手をふって止める。パーカーは、それ以上の言葉を失って、車に乗り込む主に続くしかなかった。
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