レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 ラティーマ大陸はあまり治安がよくない地域があるため、護身用の銃は欠かせない。実際にエリザベスの腕はなかなかのものだ。

 護身用の銃が欠かせないとはいえ、ハンドバッグに入れて持ち歩くのはさまざまな弊害があるために、いつの間にか脚に吊るようになった。エルネシア国内ではまず見られない風習だ。
 銃を使おうと思ったらスカートを捲り上げなければならないのだから、当然といえば当然なのだけれど。

「あなたの歩き方が独特だったのでね。懐かしいものを見ましたよ」
 そう言ったヴェイリーの目からは、ついいましたが見せたばかりの剣呑な空気は消え失せていた。
「こ……今後は歩き方にも気をつけるわ」

 やはり、ヴェイリーと自分では役者が違うようだ。エリザベス自身が望んで飛び込んだとはいえ、ヴェイリーの手のひらで転がされている感覚は間違ってはいないはず。
 背中がちょっとひんやりしたのを無視したエリザベスは肩をすくめ、二幕が上がろうとしている舞台に注意をむけた。
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