レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
黒山羊屋敷
 エリザベスが夢中になっている間に、舞台は終わってしまった。
 最後まで鑑賞して車に戻ると、パーカーは真っ先に硝子の瓶を取り出す。
 主の前であることもかまわず、中に入っている錠剤を三錠、口の中に放り込む。水はないからそのまま強引に飲み込んだ。

「……どうかした?」
 その様子を眺めていたエリザベスがたずねるが、パーカーは「何でもありません」と答えて表情を消した。主の行動が胃痛の原因なのだが、それをあからさまに口にするわけにもいかない。

「ここに行ってちょうだい」
 ヴェイリーから受け取った地図を、エリザベスは運転席で待っていたトムへと手渡した。
「おや。黒山羊屋敷においでになるんで?」
 地図を見たトムは、眉間にしわを寄せた。
「黒山羊屋敷?」
 錠剤の瓶をしまいこみながら、パーカーは鸚鵡返しに返す。胃のあたりを押さえているのは、まだ薬が効いていないからだ。

「何でも、この屋敷の主は、闇の組織と繋がりがあるとかで」
「ばかばかしい。劇場内で会ってきたけど、いい人よ。闇の組織との繋がりなんてあるはずないじゃない。顔が怖いのがいけないんだわ」
 鼻で笑ってエリザベスは早く出せとばかりに手を振った。実際後ろ暗いところは多々あるのだろうけれど、それをトムの前で口にするのは面倒である。
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