バッド・ボーイ・ブルー
好き、嘘、わからない
雨の日は、割と気分が良い。
雨が人間達の淀んだ心を浄化してくれて居る気がして。
窓の外に映る降りしきる雨。27階建の最上階からの景色は、灰色な雲が果てしなく見えた。
まだ、降りそうね。


れいの彼と出会って何ヶ月か経ったけれど、今も前の様に彼を求め時節、彼に電話を掛ける。こんな刹那的な考えが我が身を憎悪へと導いて居るのは私自身少しばかりは自覚があったけれど、寝台の中に眠る彼を見れば到底、誰だって彼を選ぶ。
気の赴く儘に電話を掛けて、満足する迄彼と過ごす。彼は最早私の生活の一部となっている、と言っても違うとは言えなかった。
しかし、彼の事は未だ名前すら分からなかった。彼も私の名前は恐らく承知では無い。お姉さん、としか呼ばないから。


一緒に食事やお茶をする訳でも無い。遊びに行く訳でも無い。只体を重ねる。そう言う所謂セックスフレンド、という関係になったらしいけれど、今更、私は彼の何なんだろうと、ふと考える事がある。
だからと言って特別な関係になりたい訳でもない。否、私には其れすら分からないのかもしれ無い。


彼の声を聞くだけで(殆ど喘ぎ声だが)、胸が跳ねる。彼の白い指が私の肌を撫でるだけで、其の部分に熱が集まる。正直を言えば、仕事をするよりも、友達と居る時よりも、彼との居る一時の方が、私には楽しみであった。
情事をするから、と言う事では無い。心情的に、彼と居る方が楽だった。
彼は何時も私の予想斜め上を行く。私が愛を囁けば、彼は其れ以上の愛をくれる。
しかし、かと言って其れが永遠に欲しい訳でもなかった。其の囁きが私だけで無く他の誰かにも同様にあるのならば、其れは其れで良かった。
彼の口から漏れる言葉が偽りの愛の言葉であろうと、仮にそうでは無いとしても、私には関係なかった。


そう信じ込んでいた。
上辺だけの関係。
只、其れだけだと ーー




-----




「久しぶり、お姉さん。」


部屋のドアを開けると其処には見慣れた彼が居た。何時も通りの御洒落なスーツと、ブランド物のバッグを持って居る。一見普段通りに見えたけれど、何処か変である。そう思いながら私より遥上にある顔を見上げる。
案の定彼の顔は赤みを帯びていて、呼吸は荒く、まあ、体調が悪そうだった、正に其の感じであった。


「体調悪いんなら、断っても良かったのに」

「お姉さんのお願いは、断れないでしょ?」


意味深な言葉にはっ、と驚く。
其れは、私があなたに快感の代わりにお金を渡すから?そんな事は、考えるけれども聞ける筈は無く。「今日はしなくていいから、休んでいって。」そう言えば彼は力無く笑った。

ゲストルームのベッドに彼を寝かせて体温計と風邪薬を渡した。
37.8度。結構熱あるじゃない、そう言うと彼は、


「お姉さんが綺麗だから。」

「冗談を言う元気があるならまだ大丈夫ね。」


二人で微笑み合う。綺麗な顔だ、と改めて思った。ノーメイクの筈の肌は肌荒れ何一つ無く、透明感があった。若いから?化粧で誤魔化す私の肌より何倍も綺麗だった。
女の子みたいにぱっちりな二重瞼、俄かに赤い唇。とても男の子とは思えない、色気が染み出て居た。


彼が飲みたいと言った炭酸水を取ってきて、適当に風邪薬も渡して置いた。
炭酸水を常飲するなんて、私と一緒じゃない。
同じブランドの同じ炭酸水。
少しばかり嬉しかった。否。気の所為ね。


「お姉さん、いくつ?」


少しだけ無言の時間が続いて、気まずくなり始めた頃に彼が口を開いた。
27よ、と答えると驚いた、と言った。
もう少し若いと思った、だって。上手い事言うじゃないの。


彼は、20歳らしい。


雨は、まだ降り続けて居る。


「お姉さんは、凄く綺麗だよ、だから声を掛けた。」


彼が目を瞑ったから、電気を暗くして部屋を出た。閉めたドアに背中を付けて蹲る。左胸は、聞こえる程にとくん、と鳴って居た。綺麗だと言われてこんなに胸が高鳴った事はあるだろうか。記憶を深く掘り返して見ても、見当たらない。
果たして彼は特別なのか。
暫く答は出そうもないわ。



-----



目を覚ますと彼は既に部屋から出て行った跡だった。何時の間にかテーブルに突っ伏して寝落ちていた私の肩にはブランケットが掛けられていた。そしてその傍には薬の箱と彼のメッセージ。
ありがとう、か。
簡潔に書かれた内容に少しばかり名残惜しさを感じたが、しょうがない、私達ははそう言う関係よ、と適当な言い訳を付けて流した。
情事して居る時の彼しか知らなかったから、今日は新しい一面が見えた様な気がする。意外と可愛いところがあるのね。否、7歳も離れて居たら可愛い感じるのは普通かも知れ無いけれど。
紙を眺めて居ると裏から透けて見える別のメッセージがあるのに気づく。
サラン、へ ?
思わずくすっと笑った。可愛い事するんだから。サランへって韓国語で愛してると言う意味だったかしら。嗚呼、彼は韓国人か。私は日本人。この異国の地で、この国の人で無い外人に出会うなんて、少しばかり運命を感じた。




好き、噓、わからない。
(疼く気持ちに気づかないで)
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