恋じゃなくてもイイですか?


海の家にありそうなプラステックの椅子と丸いテーブルが隅に置いてあり、ここも洗濯物を干す場所なのか物干し竿が軒下にぶら下がっている。


縁に手を付き、下を覗き込む。さっき食堂から見えた庭の上にこのベランダはあるらしい。


「ちょっと、仕事で行き詰ったら、ここに来るんですよ。展望台みたいなんです」


隣に佇むハルニレくんが、そう呟いた。ハルニレくんを見上げると、彼はまっすぐ前を見つめていた。私もハルニレくんの視線の先に目を向ける。そこには街が広がっていた。


「そっか、ここって丘の上に建ってるみたいなものだから、街が見下ろせるんだね」


さっき、歩いてきた道はあそこかな?大体の目星をつけながら、小さな街を見下ろした。なんか、王様になったみたいな気分になる。


すぅと優しい風が、私とハルニレくんの間を通り抜けた。


暖かい春の匂いを思い切り吸い込んだ。足元を見ると、風がここまで運んで来たのか桜の花びらが落ちていた。


「気持ちいいな」


「夏には街の向こう、河川敷きで上がる花火もばっちり観れるんですよ。僕しか知らない特等席なんです」


ハルニレくんがにっこりと笑う。春の風のような優しい笑顔だった。


「いいなぁ」


景色に、ハルニレくんにほっこりする。ここには穏やかな時間が流れている。ここで過ごせたのなら、私の心の傷も癒せるのかな?



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