恋じゃなくてもイイですか?
頭に浮かんだ妄想を必死で掻き消そうと、両手を頭の上で交差させる。
「奏ちゃん?どうした?虫でもいた?」
急に両手をバタバタと動かした私を訝し気な表情で見つめる桐生くんに、何でもないと答える。
気持ちを落ち着かせるために、カップの中のコーヒーを口に含む。
もし後者の場合だったら、私の存在って邪魔だよなぁなんて思う。
いや、BL妄想から一旦離れよう。
「やにれ荘の話をしたら、遥の奴、乗り気でさ。以前からハルニレの事は知ってたから、ハルニレっていう人物に興味があったみたいなんだ」
「ハルニレくんの絵本のファンなの?」
そうかもしれないなと桐生くんは笑いながら、テーブルの上で手を組んだ。
「俺の実家ってさ、親父が美術の先生で、母さんもテディベア作家で個展や教室開いててさ、一応、芸術一家なんだ。俺は順風満帆に現役で美大に合格して、ジュエリーデザイナーの卵として、就職も出来たけど。遥の場合もさ、小さい頃から絵画だの彫刻だの色々習わされてて___」
「俺はさ、自慢するつもりじゃないんだけれど、そういうの人並み以上に軽くこなせちゃうんだ。大した努力もしてないのに、この子はピカソかもなんて、大げさにいう先生もいてさ。弟はそんな俺の下で、いつも比べられるのに嫌気がさしちゃったみたいで、中学校に上がる頃には、周りの友達と同じように、サッカーとかバスケとかスポーツに打ち込むようになって、美術からは離れていったんだ」
遥くんはそれからも美術に興味を示すことなく、高校も普通科に進み、大学も文系の私大に進学したそうだ。