【彼女のヒミツ】


夜も深がかりみせた頃。

森永里子は、父親の洋平に明日友達とプールに行っていいかどうか訊くため、自室から彼のいる居間へ向かった。

現在、この和をふんだんに織り込んだ森永邸では、父娘の二人暮らしである。

広い庭には、ため池や石灯籠が月明かりを浴びている。

彼女は居間のガラス戸を引く手を止めた。

洋平が受話器を耳にあてていたからだ。誰かと会話している。

いくらだ……なに…そんなに……あまり私をあてにしてもらうのも困るのだが…………くっ……わかった……明日振込む……わかっているっ

最後の言葉の語尾を荒げて言うと、洋平は受話器を乱暴に切った。

舌打ちをし、喉奥から唸り声をあげている洋平に、彼女は声をかけた。

彼がどうしたと訊くと、里子はプールの件を口にした。

革張りのソファに腰を下ろした彼は、興味なさげに了承した。

居間を出ようとする里子を、あ、ちょっと、洋平は彼女を呼び止めた。

「里子。こっちにおいで」

彼女は硬直して動けなかった。父親から声を掛けられるのは、久しぶりだった。約一年ぶり。

洋平は里子を求めている。

彼女はゆっくりと父親に近づいた。

彼はゆっくり立ち上がり、里子を優しく抱きしめた。

里子は身じろぎ一つとらない。

洋平の右手は、彼女の小さな尻を舐めるように触っていた───






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