今さら恋なんて…
「…あの子、司ちゃんの彼氏ー?」
カラーを塗られているお客様が、鏡越しにあたしを見て笑う。
あたしがただのスタイリストだった頃からもう何年も通ってくれてるお客様だから、あたしのことちゃん付けで呼んでるんだよね。
「違いますよ。…どうしてそう思ったんですか?」
あたしは、カラーを塗り終え、アシスタントが渡してくれたラップをお客様の頭に巻きながら訊いた。
「…何か、司ちゃんにしては珍しく、見とれてたから」
「あはは。そうですかね。…んま、カッコよかったから、さくっとナンパしてきたんですけどねー」
「やだー。司ちゃんってばー」
あはははは、って店に笑い声が木霊する。
「…じゃぁ、ちょっとお時間置きますねー」
あたしはタイマーのスイッチを入れると、その場を離れた。
そして、セット面に案内されていた彼の元に向かった。