今さら恋なんて…
「こんにちは」
鏡越しに挨拶すると、
「こんにちは」
って、優しい笑みが返ってくる。
相変わらずのつるんとした肌。
何だよ、その爽やかさは、って文句言いたくなるくらい眩しい白いシャツ。
1つ開けたボタンの襟からはカラーの裏地の青いチェックが覗く。
軽くお腹の前で組まれた長い指には指輪が1つ…。
左の中指…。
何か…意外な指のチョイスだな…。
「店長さん…ってお呼びすればいいですか?」
にこやかな笑顔を崩さずにそう訊かれる。
「…何でもいいですよ。“前園”でも“司”でも」
あたしは人差し指を立てて、そう言った。
「…じゃぁ、“司さん”で」
彼はそう言うと、またにこり、と笑った。