ゆとり社長を教育せよ。


「意外と乙女なんですね。高梨さん」


目を丸くする社長を、私はひと睨みする。



「……意外は余計です」

「でも、なんだかとっつきやすくなったかもしれない。
昼間は怖い顔してたから、過保護な教育ママとか厳しい女教師にしか見えませんでしたし」



……あー、そうでしょうね。そりゃわざとそういう顔をしていたんですから。



「これを機に、仕事中も是非今みたいな柔らかい高梨さんの方でお願いしたいなぁ」

「――それはできません」



食い気味に、私は彼の甘えをシャットアウトした。

そういえば、この人はどうやらわかってないみたいだ。私の仕事が単なる秘書業務だけでないってこと。

私はそれを伝えるべく、冷たい声で話し出す。



「私が会長から命じられているのは、社長を“社長らしい人間”に教育することです。プライベートに口出しすることも許されているし、必要があれば自宅に押しかけていいとの許可もいただいています。
だから……恋愛は面倒だとか、そういう人間関係に対して消極的な部分も変えさせていただくつもりですので覚悟しておいてください」



まだ、手段は考え付いていないけど……社長ともあろう人間が草食系男子って、ハングリー精神に欠けてるってことだ。

仕事も女もがつがつと、欲しいものは欲しいと言える。極端かもしれないけれど、それくらいの人じゃなきゃ、会社のトップなんか務まらないと思う。


しばらく黙って何か考え込んでいた社長だけれど、ふいに満月の浮かぶ秋の夜空を仰ぐとこう言った。



「……高梨さん」

「はい」

「俺、明日会社休みたい」


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