ゆとり社長を教育せよ。

「してましたよ。だって、それ見て思ったんです。高梨さん、会社で見る時より可愛いなぁって」

「……は?」


社長に対してちょっと失礼すぎるかもしれないけど、思わずそんな間の抜けた声が出た。

昼間、私に対してあんなにビビっていた子犬の目はどこに行ったの?

なんだか今の彼はとても自由で、くつろいでいて、そしてちょっぴり大人びて見える。



「それに、今も泣いてるし」

「あ――」



やば、涙、拭うの忘れてた……

ゆとり王子に弱みも泣き顔もを見せてしまったなんて不覚だわ。

このことに恩を着せられて、明日からの仕事に支障が出たらどうしよう……

慌てて目元を擦った私の頭上に、ふっと笑った彼の息がかかる。



「めんどくさいですよね、恋愛って」

「え?」

「今の高梨さんみたいに、傷ついて泣いたりするくらいなら、ずっと一人でいいやって、俺なら思っちゃいます」



……ああ、ゆとり君らしい。面倒なことは避けたがるその性格。

だけど、恋愛ってそんな風にかわそうと思ってかわせるものじゃないでしょう。


「……それでも人を好きになるのが人間だと思います」


私は、ぽつりと呟いた。


まあ、私も今回痛い目を見たから、しばらくの間は合コンの類を自粛しようと思うけど……

それでも、やっぱり出逢ってみたい。自分を大切に想ってくれる運命の相手と。


仕事が楽しくていつの間にか三十を超えてしまったけど、そんな風に思う自分を決して恥ずかしいとは思わない。


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