ゆとり社長を教育せよ。
社長室の大きな扉をノックして、充の声で「どうぞ」と返ってきたのを確認すると、私はそっと扉を押して中に入った。
すると――
「か……会長? それに、亜紀ちゃんも……」
目に飛び込んできたのは、充の父親である会長の姿と秘書課の後輩、亜紀ちゃんの姿。
会議用のテーブルで充と向かい合っていた二人が、私の姿を見て立ち上がった。
「美也さん……ごめんなさい!」
そう言って駆け寄ってきたのは、泣きそうな顔をした亜紀ちゃん。
彼女は可愛いボブヘアを揺らして、私にぺこりと頭を下げた。
「ど、どうしたの……?」
「少し前……書類に、カッターの刃を入れたの、私なんです……! 凜々子さんに、“やらなければ常務との関係を、常務の奥さんにばらす”って言われて……」
顔を上げた亜紀ちゃんの目は真っ赤で、私の胸にツキンと痛みが走る。
自分のくだらない欲のために、亜紀ちゃんまで嫌がらせに加担させていたなんて……
そう思うと、凜々子さんに対する不信感がさらに強まった。
「じゃあ、亜紀ちゃんも、ある意味被害者だったんだ……」
「……そんなことないです。私が断ればよかっただけのことですから」
亜紀ちゃんはふるふる首を横に振ってそう言い、少しふっきれたような表情で言う。
「でも、これを機に常務とは別れることにしたんです。
凜々子さんのこと彼にも相談したんですけど、彼も自分の出世が一番大事みたいで、次期社長の可能性が高い専務の秘書がやることには口を出せないって……その台詞にがっかりしちゃったんで」
「そっか……でも、それでよかったと思う。亜紀ちゃんまだ若いんだし、すぐ素敵な人が現れるよ」
「美也さん……ありがとうございます」