ゆとり社長を教育せよ。
『……専務が、折れてくれたんだ。あの人、そもそも俺がこんな真面目に考えてくるとは思ってなかったらしくて。
それに、企画書の時点で“これは売れる”って言ってくれて……親父も、それから他の役員も満場一致で商品化目指すことになった』
そう話す充の声は、ウキウキ弾んでいて、本当に嬉しそう。
仕事のことでこんな風に生き生きしている彼を見るのは初めてだ。
またしても巣立つ子を見送る親のような寂しさを感じてしまうけれど、それ以上に、嬉しい気持ちでいっぱい。
「よかったです、本当に」
しみじみと噛みしめるように言うと、受話器を当てていない方の耳に、鋭い声が突き刺さった。
「な、なんですって――!?」
唇を噛み、ワナワナと震えるのは私と同じく電話を握りしめる凜々子さん。
電話の相手は専務……? 彼のガーナ行きに納得できないといったところだろうか。
『それで、野原さんの処分の件も正式に決まったんだけど……』
充の声で我に返り、その話に耳を傾ける。
えーとなになに。専務が水道事業でガーナに行ってしまうから、新しい専務が子会社からやってくる。
そしてその新専務は、充の母親の兄の息子――つまりまたしてもイトコなわけね。
歳は二十五。これまた若いわね……ちゃんと仕事できるのかしら。
『――俺の性格ってさ、たぶん母親の血筋なんだよね。だから、新専務になる俺のイトコもかなりふわふわした奴でさ。前の会社ではこう呼ばれてたみたいなんだ』
充がその先を言う前に、またしても凜々子さんが声を張り上げた。
ガタッと席を立ち、かなり怒っているらしい彼女の口から出たその言葉は――
「どうして私が、“さとりくん”の教育係なのよ――――っ!!」
……なるほど。
それが凜々子さんへのペナルティってわけか……