ゆとり社長を教育せよ。
「サンシャインほどの大手との取引が消えたら、会社がどれだけ大きな損害を被るとか、少しは考えてください。
他のスーパーに目いっぱい仕入れてもらったって、きっとその穴は埋められませんよ?」
加地社長には、そういう未来のことまで見据えられる力を身に着けて欲しい。
極端に言えば、今回みたいなことがあったとき、秘書の私を差し出しちゃうずるさとか、そういうのも必要だと思うのよね。
「うーん、そっか。確かに、どれくらいの損害が出て、結果会社がどうなっちゃうのかとか、上手く想像できてませんでした。
俺的には、取引どうこうよりも高梨さんが泣く方がいやだなって思っちゃったから」
腕組みをしながら、社長がそう呟いた。
……なにそのちょっとキザな発言。全然嬉しくないけど。
「私が、泣く……?」
「そ。昨夜みたいに。高梨さん、気が強そうに見えて、実際そうでもないみたいだから」
……う。やっぱり、昨日のアレをこの人に見られていたのは痛かったかもしれない。
頭痛を抑えるように額に手を当てた私に構わず、加地社長は腕時計を見てこんなことを言う。
「もうこんな時間ですね。次、試食会でしたっけ? そろそろ戻らなきゃ」
――え。社長が私より先に時間のことを気にするなんて、どういう風の吹き回し?
目を瞬かせた私は、思わず完全なる嫌味を口にしてしまう。
「社長の頭に次の予定が入っているとは、驚きです」
「あはは、ひどい言われようだなー、俺。でも残念でした、苺チョコが好きだからたまたま覚えてただけなんです」
……あ、そ。まあ、そんなことだろうと思ったけどね。
この問題児がそんな簡単に変わるわけもないし、気を取り直して次の仕事よ。
私たちは待たせていた車に乗り込むと、自社の開発部が企画した試食会に参加するため急いで会社に戻るのだった。