ゆとり社長を教育せよ。


社に戻ってから試食会まで、二十分くらいの余裕があった。

その時間を使って、私は社長より先にその会場となる会議室の下見に来ていた。


「資料が一部足りません!」

「こっちはチョコがない」


そこでは、開発部の社員たちが大きなデスクに人数分のお茶、それから新商品の苺チョコレートとその資料を並べる作業で忙しなく動いていた。

その部屋の隅に佇み、渡された資料にぱらぱらと目を通してみると、どうやら今回はホワイトチョコレートにフリーズドライの苺を合わせた、甘酸っぱさが売りの商品になるみたい。

見た目にも白と赤が鮮やかでキレイだし、すごくおいしそう……

あわよくば私もご相伴にあずかりたいところだけど、さすがに秘書の分まではないだろうな――。


会議室の時計は十一時過ぎを指していて、だから小腹がすいてるんだ、なんて思いつつ、そろそろ社長室にゆとりくんを呼びに行かなきゃと、扉を出ようとした時だった。

私が開ける前に外側から開いた扉から、懐かしい顔が入ってきた。



「あ……霧生、くん」

「おお! 高梨じゃん! 久しぶり!」



凛々しい顔立ちをくしゃっと崩して笑いかけてくれたのは、霧生雅人(きりゅうまさと)くん。

彼と私とは同期入社で、そしてその入社直後、お互いにちょっと苦い経験をした仲でもある。


「霧生くん、今、開発部にいるんだね」

「そうそう、去年販促から異動になってさ。そういう高梨は社長秘書に抜擢されたんだって? なんか、どんどん手の届かないとこに行くなぁ。
お前は同期の星だってみんな噂してるぞ」


久々に顔を合わせた同期……しかも他でもない霧生くんからそんな風に言われると、柄にもなくどきまぎしてしまう。


笑うと目尻に寄る皺とか、ちょっと大きめの声とか、頼もしそうな広い肩とか……

そういうの、あの頃と全然変わってないんだもの。


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