ゆとり社長を教育せよ。


“ホワイトチョコと苺の割合を再度練り直し”


――という結論で、試食会は無事に幕を閉じた。

このあとの社長の予定には少し余裕があったので、社長には「今のうちに昼食を」と伝え、自分は会議室の片づけを手伝っていた。

あらかた部屋がきれいになると開発部の人たちは次第に減っていき、今ここにいるのは偶然にも私と霧生くんだけだ。


「悪いな、こんな雑用手伝ってもらって」


分別したごみの袋をきゅっと縛りながら、霧生くんが言った。


「ううん、たまたま時間があったから。……それにしても、私の意見なんて採用してよかったの? 開発部の中でも少数意見だって言ってたけど……」

「ああ。俺は高梨の味覚には一目置いてるんだ。例の、飲み会の日……居酒屋のお通しの味がおかしいって気づいたの、高梨だけだったろ」

「あ……そういえば」


かなり前の話だけど、そんなこともあったっけ。

入社してすぐに、同期の親交を深めようって開かれた飲み会の日。

確か、お通しで出てきたのはイカの塩辛で……まずいって訳じゃないけど、なんだか舌に違和感を感じたから店員さんに確認したら、それはなんと賞味期限が切れた塩辛で。

新しく入ったバイトの子が、捨てるために置いてあったそれに気づかずそのまま出してしまったんだとか。


あの時はお詫びに飲み物のお勘定をタダにしてもらって、ラッキーなんて思いながら、調子に乗って飲みすぎて……

それで気が付いたときには、霧生君と――――。


って。そのことは今思い出す必要なしなし!

片づけも一段落したことだし、そろそろ社長室に戻ろう――と、パッと顔を上げてみると、ちょうど霧生くんと視線が合った。



「……せっかく久々に会えたんだし、どう? 昼飯でも一緒に」



私はたぶん、過去の記憶と今を変な風にリンクさせてしまったんだと思う。

霧生くんにきっと他意はないのに、そんなさりげない誘いに心臓が過剰に飛び跳ねた。


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