ゆとり社長を教育せよ。


「……お願いがあるんだけど」

「は、はい……!」


来たわ、来た来た! そうね、さしずめ次の台詞は……



“美也ちゃん、今夜きみのすべてが欲しい――”


「僕と一緒に、マレーシアに来てくれないかな?」



マレーシア……? そんなホテルの名前あったかしら?

まさか、千影さんともあろう人がそんなださい名前のラブホに誘うなんて――



「半年後に海外転勤が決まっているんだ。それで、美也ちゃんさえよければ、一緒に来てくれないかなって……僕の、妻として」

「海外……? 妻……?」



そこまで言われて、やっと自分がとんでもなく恥ずかしい勘違いをしていたことに気が付いた。

マレーシアって、マレーシアね! 東南アジアの!

あの綺麗なビーチには一度行ってみたいなんて思っていたけど……妻としてっていうのは?


瞬きの回数を多くして千影さんを見つめると、彼はちょっと恥ずかしそうにうつむいてから、こう言った。



「今の……一応プロポーズのつもりだったんだけどな」

「え――?」



プ、プロ……今、なんとおっしゃいました?

酔いの回った頭では急展開についていけない。


でも、妻、プロ……ってことは、プロレスではないだろうしプロテインでもないだろうし、10代の頃お世話になったニキビ用化粧品でもないだろうし……


まさか、私、千影さんにプロポーズされた――!?


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