調導師 ~眠りし龍の嘆き~
‡〜悲しい記憶〜‡

外に出てはいけない。

大人を信じてはいけない。




「ずっと とうさまと、いっしょだったのに…。
おじさんやおばさんたちが、きたの…。
とうさま、いやだって…いってた。
かえらないって。
ここに きたくなかったの。
てを、つかまれた。
いたいって いっても、はなしてくれなかった。
とうさまと、この おうちに きて…
おっきい おへやに、とじこめられた。
おじさんがきて、とうさまだけ どっかに つれてくの。
かえってきた とうさま…ないてた…。
みなとをぎゅってして、しんじられるかって…ないてた…」

上手く声が出せない。
喉の奥が熱い。
息がつかえる。
けれど言葉は、次から次へと溢れ出てくる。

「なんにちかして、とうさま…また
つれていかれた。
でもっ…かえってこなかったっ…」
「…帰ってこなかった?」
「おじさんがきて…つれていかれた へやで、たおれてた。
しんでるんだよってっ…」

父の動かない身体を前にした時の胸を締め付けるような苦しさが蘇る。
死んでいると聞いても、幼い頭には本当は分からなかった。
それでも、眠っているのではないことだけは分かった。
父は夜中に少し声をかけるだけで、起きてくれる人だったから…。
熟睡することなど一度としてなかったのだ。
だから気付いた。
眠っているのではない。
『死んでいるんだ』と。

「このへやに、はいるまえ。
おねえさんたちが はなしてた。
ころされたんだって」
「………」
「ころされたって いみ わからない…。
けど、いやな かんじがしたの。
だから、でたくない。
おとなに あいたくないっ」
「………」

大好きだった父が隣りにいない。
側にあるべき人が存在しない。
外に出られたところで同じことだ。
父が死んでしまうような恐ろしい事が起こる外には出たくない。

「……また来てもいい?」

これまで沈黙していたシンが呟くように問う。

「夜しか来られないけど、また来るよ」

今度は、はっきりとした声で告げる。

「うん…シンは、こわくないから……」

そうだ恐くない…。


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