調導師 ~眠りし龍の嘆き~
‡〜選ばれし者〜‡

消えていく声とは反対に、強い光りが何もない空間に現れる。
次第にその光りも弱まり、ゆっくりとこちらに落ちてくる。
反射的に受け止めたそれは、涙型の青い水の揺らめきを思わせる色の石だった。

「これが鍵…?」

父の遺体を前に、もう届かない想いを告げる。

「とうさま…
悲しまないで…」

日記から読み取った父の想い。

力を受け継いでしまった私の未来を誰よりも想ってくれていた。

受け継がれてしまった力をどうすることもできずに…。

「泣かないで…。
力を持った事…。
悔いてはいないから…。
愛していますとうさま…。
どうか…安らかに…」

悲しみは、感謝の気持ちに変わった。
力がある。
それは、きっと愛する人達を守る事ができる力。

「きっと、もう一度迎えにきます。
待っていてくださいね」

立ち上がり、託された鍵を握りしめる。

聞こえる。
二つの力ある声。
一つは暗く、身を引き裂くような恐怖さえ感じられる調べ。
もう一つは、時折揺らめいて不確かな…けれど優しい調べ。



《呼んでいるよ》



光りを放って、手の中の鍵が語りかけてくる。

「そうね。
あなたも早く、在るべき所に行きたい?」



《連れていって》



「うん。
行かなきゃね」

場所はつかめた。

どうすれば良いのかも、もう分かっている。
終わらせる為に…。

「行って来ます。
とうさま」

もう一度だけ父の顔を見て駆け出す。
手にはしっかりと鍵を握り締め、迷うことなく行くべき場所へ。


< 44 / 130 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop