私んちの婚約者
マキには事情を電話で話してあった。
そして私の『作戦』も。

「私のいとこが梓に協力できると思うわ」

マキは名刺を出した。
“メイクアップアーティスト 新城ユキ”とある。

「これ、会場の見取り図」

傍らでは透也が大きなテーブルに図面を広げた。
それをじっくり見て、昔カイ兄に言われた言葉を思い出す。

『いいか、梓。こういう場所には必ず警備の死角があって……』

……犯罪風味な情報も役に立つんだね、カイ兄。

「スパイ映画みたいよね。わくわくするわね」

マキが楽しそうに言った。


私達のやろうとしていること。

ーー愁也の社長就任パーティーに潜入する。
ぶっこわして、ぶっこわして、ぶっこわしちゃうんだから。


「蓮也兄さんが手を打たないはずがないだろ。万が一父の機嫌まで損ねたら……高宮家は終わりだぞ」

計画を話し合う中、透也が呆れたように言った。

リスクが高いのは承知の上。
でもマトモな方法じゃ、もう愁也には会えない。


「蓮也が何よ。ぶっとばしてぶっとばせば何とかなるわよ」

私の危険値は未だにガンガン上昇中ですとも。


「名付けて“行き当たりばったり、若さと勢いで何とかなるんじゃね?”作戦〜!!」
「おー!」

マキは面白そうに笑ってる。透也がガックリとうなだれた。


私達が居るのは作戦本部――透也があのホテルの別の部屋を取ってくれたんだ。
ロイヤルスイートは蓮也の管理下だけど、一般客室なら目立たないだろうって。
それでも豪華な部屋よ、まったく。
そこに籠もって、私達は愁也を取り戻す方法を考えているわけ。
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