私んちの婚約者
愁也は私の頭をポンポンして笑う。

「これ、なんかペット扱いではないですか……っ」

「ああ、小動物みたいだもんな」

くうぅ……。なんだか複雑だ!!

けれど彼は極甘全開の笑顔をするから、なんだか怒れなくなって。
ついついされるがままナデナデ。うん、もういいや小動物でも。
愁也は大人しくなった私を覗き込む。

「……ほんとに可愛いな。頼むからまた他の男に口説かれんなよ」

いやいや、いくら何でも。

「あるわけないじゃん、そんなこと」

軽く流した私は、この時の愁也の心配なんて、全く意識をしてなかった――。





その夜は父の会社のイタリア支社立ち上げチームの親睦会とのことで、会社近くのレストランでささやかなパーティーが催された。

「梓~会いたかったよ~」

「父うざい」

両手を広げて近寄って来た父に一撃。そういえば誘拐騒ぎ以来だな。解決した後にさらっと愁也から事情説明はしてもらったけれど、すっかり忘れてた。

「酷いよ、梓ちゃあん」

「ダディうざい」

「今ダディって呼んでくれた!?」


久しぶりの父はほったらかして、さっさと私は料理を物色し始める。
父と愁也はもちろんスタッフをねぎらったり挨拶したり、忙しく動き回っていて。
私は愁也がそばにいないのをいいことに、料理を食べまくることにする。

「あー美味しいっ」

ニコニコな私に、隣に居た金髪の男性が話しかけてきた。

「Piacere」

ピアチェーレ、って……確か『はじめまして』だよね。

「Piacere mio(こちらこそはじめまして)」

とりあえず返事をして、私は食事再開。

男性がまた何かを早口で言った。
けど私には聞き取れない。
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