私んちの婚約者
だけどその男性はじ~っと私を見てる。
返事、しなきゃダメなの?この場合。

じ~っ……。

「イタリア語わからないし、すみませんが、今大事なとこなの!」

あそこのパスタ食べ損ねたらどうしてくれんのよ!
ついに日本語で返してしまえば、相手はびっくりしたように私を見て。
それから笑った。

「Quanto sei bella.
“君は、なんて素敵なんだろう”って言ったんだよ」

「そりゃどうも。って、日本語しゃべれるんだ」

心配して損した。
途端になんだか親近感がわくから不思議なもの。

「あれ、意外と冷静だね」

男性が苦笑する。

「まあ、イタリア人男性の口説き文句は挨拶がわりと聞いてますから」

愁也に散々叩きこまれたもんね。

『だから真に受けるな!俺から以外の口説き文句は、業務連絡だと思え!』ってさ。それもどうかと思う。

「それより日本語上手ですね」

褒めれば、相手はまたまたにっこり。

「高宮社長は日本人だし、僕もスタッフの一人だからね。……それに妹が熱心に勉強していたもので」

妹?

彼の金髪と、強気そうな瞳にどことなく面影が重なったのは。

「……マリア?」

「正解。僕はレオナルド・アルバーニ。レオでいいよ」

妹より各段に流暢な日本語で、彼は優雅にそう言ってみせた。
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