私んちの婚約者
走っていって、相手は誰って聞けばいい。
あるいはどついて、浮気すんなって叫んでみるとか。

でも私は、どっちも出来なかった。

優しく笑う愁也。
他の女性に向ける笑顔だなんて、思いたくない。

……無性に淋しくなって。
……だんだんムカついてきた。


あーもー悩んでるの、馬鹿らしい!!
聞いてしまおう、うん!
親族との電話でした、とかってオチかもしれないじゃん。
そしたら疑った自分がちょっぴり、いやかなり恥ずかしいだけだ!!


そうやってドアを思いっきり開けたなら。
ちょうど愁也が電話を終えてこちらを見たとこだった。

「……梓、なんてカッコしてんの」

あ。

私は裸にシーツのみ。
だ、だって暗くてよくわかんなかったし、面倒臭かったんだもん。

愁也はゆっくり寄ってきて、私をシーツごと抱きしめた。

「さっきといい、今といい、随分俺を誘ってくれるね」

そのまま肩に唇を滑らせる。

「やだ」

小さく抵抗するけど、そんなもん愁也に通用するわけがない。

「やじゃないだろ」

う。

……白々しいと殴り倒すべきかしら。

でも、愁也は本気で私を抱き締めてるみたいだし。
どうも浮気、とは思えないんだよなあ。

んん~思いたくない、かな。

信じたい。

……それに、きもちいーし。

ああ、これが惚れた弱みってやつ?
こうやってダメ女になってくのか~?
いかん!いかんよ、梓君!!


「何考えてんの?」


グルグルしていた私の様子に、彼がふ、と微笑みを零して。


「考え事する余裕なんて、あげないよ」


愁也の手で、シーツが床に落ちた。
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