私んちの婚約者
私は息を吸って。

「愁也が好き。

キライにならないで。ずっと好きでいて。

他のひとなんて、見ないでよ」


だから私はまた色仕掛けで、あなたを繋ぎとめる。

後ろから抱きしめる、愁也の方に向き直って。襟元を掴んで引いて。
爪先立ちでキスをした。

「……っ」

愁也が驚いたように私の瞳を見つめてるけど。

何度も、何度も。

ついばむように、
絡めとるように、
貪るように、
捕らえるように。

唇に、
首筋に、
頬に、
耳朶に、
指に。


道行く人が振り返るけど、さすがイタリア、誰も気にしない。


愁也は茫然として。

唇が離れた頃には、――その頬が真っ赤に染まっていた。


「……っ、どこで覚えた?そんなワザ」

「いっつも愁也が私にしてることだよ」

実践で優秀なお手本がありますから。
けろりと言ってやれば、愁也は天を仰いで

「墓穴を掘ったな……」

と呟いて。……それからクスクスと笑った。


「梓は誤解してるよ。俺は浮気なんてしてない」

彼が私の手を握る。
その顔に浮かぶのはーーもう甘くて優しい笑顔だった。


「おいで。ちゃんと説明するから」
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