私んちの婚約者
私はぶんぶんと首を振って彼に言う。
何だか分からないが、流されてはいけない気がする。


「いやホントに!趣味は地方グルメお取り寄せだし、好きな場所はデパ地下だし」

「そんなとこも可愛いですよ」


笑顔なのに。
神谷さんが、怖い。


な、何でだんだん近付いてくるの?


エレベーターを途中階で止めようにも、私は一番奥に居て、階数ボタンは彼の背後にある。
一階に着くまでは降りられそうにない。もうそろそろのはずだけど。


「それに、それに」


じりじり下がる私の背中が、壁にぶつかった。
もう逃げ場が無い。

目の前の男性は、それでも私に近づいてくる。


「私、取り柄無いし!!」


チン、と軽快な音がして、エレベーターの扉が開いた。



「梓の取り柄は、

料理と、
キスが上手いこと」



開いた扉に手を掛けて、そう言ったのは



「愁也……さん」
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