愛されオーラに包まれて
『編集部の意識が足りないんだろうな。企画が通って予算が下りたのをいいことに、ギリギリか、或いは予算をオーバーさせるのを当たり前だと思っている人もいるから』
「じゃぁ、いくら私達が頑張っても利益が上がらないじゃないですか」
『うーん、その企画の人、ヒットメーカーの編集者だからなぁ。みんな文句言えないんだけど、さすがに今回は度が過ぎたのかな』

玲奈さんは"フフ"と笑って、

『ちょっと総務に行ってくるね』

と席を離れた。
何か、致し方無い、みたいな感じがやりきれない。
何か心がモヤモヤした。

よし。
ちょうどいい。
桐生さんとはこの話題で話を膨らませよう。

そう思って二部を見たら、桐生さんは外出NR(ノーリターン)になっていた。

え、戻ってこないの?

無事、訂正伝票の提出も終わり、午後4時過ぎ。

私の携帯にメールが来た。
桐生さんから。

"今日、雑誌の部数交渉で販売会社巡りをしてるからそっちには戻らない。18時30分にゴールドヘブンリーホテルのロビーで待ってて"

え、ゴールドヘブンリーホテル?
あんな高級なホテル?

どうしてそんなところで待ち合わせするんだろう。

でも、私も桐生さんもまだ仕事中なので、簡潔に

"分かりました"

とだけ返信した。

楽しみなような、不安なような。
私の今の心をうまく説明できる言葉が見つからない。
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