死が二人を分かつとも
「うわっ、そよ香さん、後ろ後ろ!」
正確に“斧を当てられた犬”が、木に張り付けられていた。
私を襲った“犬”。目を瞑っていたから分からなかったけど、彼の手にあった斧が離れて、“犬”と共に木の飾りとなっているなら、想像はつく。
想像はつくけど、信じられなかった。
「投げ、た……」
常軌を逸している。
的当てをする冷静さも、あの一瞬でそうする決断力も。
自身が無防備になろうとも、斧を投げた彼。
命の綱とも言えよう武器を手放すーー最初からそうなると予想していたにせよ、“獲物”として見られるあの中で、どうして彼は。
「悪い、怪我した。でも、もう終わるから」
私に、“語りかけてくるのか”ーー
挨拶でもするかのように自然で、私とデートしているかのように優しく話しかけて。
「最後の、一匹だ。ただでは、殺さないからな」
同じ口で、殺意を語る。
最後の一匹。完全に畏縮していた“犬”の足を、彼は踏みつける。
枝が、折れる音がした。
「お前、群れのボスだろ?ずっと安全な後ろ(ここ)にいたからな」
片足だけでも逃げようとする“犬”を捕まえ、牙を剥こうものなら、彼はベルトを使い足と口を無理やり絞めた。
悲鳴が潰れてくぐもろうがお構いなく、ウェストを絞るかのように内臓を破裂させんがばかりまでベルトを詰めていく。
「そよ香を襲ったのもお前の指示だよな?お前が鳴く度に他の奴ら動いていたよな?ーー言葉、分かるだろ?穏便に済ませようとするコウモリの言葉を“あんなに馬鹿笑い”していたじゃないか」
「や、やっさん……」
その弥代くんの姿に、声をかけたのはチロだった。私は声もかけられないほど、震えているばかりで。
彼がこちらを振り向く。
「お前、こういうの嫌いだもんな」
ごめんと、彼の肩から力が抜けるのが分かった。
「他の群れにも伝えておけ。俺たち襲ったら、どうなるかってことを」
自由になった“犬”が彼から逃げたがるのは当然。それをより“酷い形”で叶えた彼は、犬を蹴った。
影も形も分からないほど遠くへ。
静かになった空間は、チロの羽ばたきが聞こえるほどだった。