死が二人を分かつとも

「あ、ああ!き、君たち、人?人かい!?」


そっくりそのまま、その言葉を返したくなる人が私たちを見るなり、駆け足でやってきた。

中肉中背、加えて中年。デニムに、よれたシャツを着た男性だった。

「ば、化け物に追われて、な、何なんだ、ここは!気がついたらこの場所にいて、僕はいったいーーで、でも、ひ、人が、よかっ、良かったぁ」

混乱と安心が混じり合った男性は、その場にへたり込んだ。

四つん這いになり、荒く息をし、整った後、足を伸ばし座り込む。

「誰だ、お前」

年上でも敬語抜きなのは、弥代くんが未だにこの男性を警戒しているからだろう。

ここにいる時点でーー地獄にいる“死人”なんだ、彼の目つきが鋭いままなのは無理ないし、私も庇う弥代くんの前に出ることが出来ない。

「だ、誰だって……ひっ。き、君、な、なんてものを持っているんだ!」

弥代くんの斧に畏縮する男性。
手を前に出し、待ってくれと左右に動かしている。

「ぼ、僕は化け物なんかじゃないぞ!ち、知性がある!」

「そんなこと見て分かる。でも、『知らない人に声をかけられたら』って常識もあるだろう」

「こんな化け物がいる場所で、何を……あ、ああっ、分かった!分かったから!」

弥代くんの敵意が変わらないと悟ったか、男性はポケットから黒い財布を取り出した。

「八木圭司(やつぎけいし)!普通のサラリーマンだ!休日を家族と過ごしていたら、ここに来て、もう、何が何やら……。あ、怪しいものじゃないっ。だから、警戒しないでくれ!」

財布から出された免許証。投げられ、彼の足元に落ちたが、拾われなかった。

男性の視線が私に移る。
助けてほしい、信じてほしい。そんな意思が伝わる弱り切った目だった。

「おい、そよ香」

< 75 / 133 >

この作品をシェア

pagetop