愛を欲しがる優しい獣

「佐藤さん!!」

突然、腕を引かれて身体が後ろに傾く。よろめいた私を支えたのは鈴木くんの逞しい身体だった。

このまま、この腕の中にいられたらどんなに幸せだろう。

私は、幻想を振り切るように鈴木くんの身体を突き飛ばした。

「さっきの話、聞いたでしょう。私はひどい女なの。鈴木くんの気持ちを踏みにじっていたのよ」

優しさにつけこんで、友情ごっこの真似までさせて得たものは一時の安息だった。

……本当に楽しかった。

他人と一緒にいて、初めて安らぎを感じた。鈴木くんといる時は、心の底から笑っていたような気がする。

私は分からないふりをしていたのだ。

鈴木くんの気持ちに気が付いてしまったら、恋が出来ない自分自身をさらけ出さなければならない。

きっと鈴木くんは私の元を去っていくだろう。……あの時の彼のように。

あんな思いをするくらいなら、ずっと友達のままでいたかった。

……けれどこの気持ちは、鈴木くんの純粋な気持ちを踏みにじるものだった。

ずるくて、卑怯な女だ。
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