愛を欲しがる優しい獣

「私、知らなかったな……。姉さんの学生時代にあんなことがあったなんて」

「俺も……」

ふたりともすっかり落ち込んでいた。

姉ちゃんのトラウマの原因が自分たちのせいと思っているのだ。

良くも悪くも我が家は姉ちゃんを中心に成り立っている。それは変えようと思ってもすぐには変えられない。

「お前らは良いんだよ。まだ学生で養ってもらう立場なんだから気にするなよ」

姉ちゃんの献身を犠牲だと思って欲しくなかった。

きっと姉ちゃんも同じことを言うだろう。

「早く大人になりたいな、俺」

櫂が急に青臭いことを言うものだから、俺は思わず吹き出した。

(若いってすごい)

大人になりたいと口に出してしまうこと自体が幼さを感じさせる反面、自分の無力さにきちんと向き合っている強さも滲ませていた。

< 124 / 327 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop