愛を欲しがる優しい獣
「櫂だけが無理に自立しようと背伸びする必要なんてないぞ。程度の差はあれ、俺達はみんなシスコンだからな。心のどこかで皆、姉ちゃんに甘えているんだよ」
なお心配そうにしている早苗と櫂の頭をガシガシと撫でる。
「大丈夫、きっと上手く行くよ。姉ちゃん、前の男と別れた時よりもへこんでいたからな」
鈴木の奴がここぞという時にヘマをしなければきっと上手く行くはずだ。
(しっかりやれよな)
心の中でエールを送る。
あまり認めたくないが、ダサいオタクの鈴木のことを今は頼りにするしかない。
姉ちゃん自身が幸せになるためにはどうしても、誰かの手が必要だった。
まだ帰ってこないのかと思っていると、玄関扉を開ける音がした。
「帰ってきたか」
互いに頷くと、俺達はふたりを出迎えようと揃って玄関に走った。
そして、予想もしなかった人物の登場に仰天することになる。
「……母さん?」
「あら、樹。男前になったわねえ」
玄関を開けて家に入ってきたのは、日本にいるはずのない母親だったからだ。