愛を欲しがる優しい獣
「お母さんが帰ってきてから、少し落ち込んでいたの」
……まるで、泣いているようだった。
佐藤さんの声は波の音にかき消されてしまいそうなくらい小さくて。
「お母さんが帰って来るとね、私の居場所がなくなったみたいで……。そんなことを考えている自分もとっても嫌い」
佐藤さんはいつだって家族の中心にいるのに、どうしてそんなことを言うのだろうか。
俺には不思議に思えてならなかった。
そして、唐突に気が付いた。
(違う、だからこそ欲しているんだ)
家族の中心であり続けるために、献身的に尽くしてきた彼女が決して手に入れられなかったもの。
それは自分だけに向けられる愛情だ。