愛を欲しがる優しい獣
水族館を出て空を見上げれば、大分日が落ちてきたことが分かった。
早く帰らないと、夕飯の時間に間に合わないかもしれない。
それでも、俺達は海の見える国道沿いをゆっくりと歩いていった。
潮の匂いが鼻をくすぐっていく。時折、生温い風が吹いて悪戯に髪をさらっていった。
佐藤さんは纏わりつく髪を耳に掛けながら言った。
「今日はありがとう。すごく楽しかった」
楽しかったと言っているのに、俺にはどうしてかそう思えなかった。
どうして、そんなに寂しそうに笑うのか。
「……俺に、嘘をつく必要なんてないよ」
「やだ、バレバレなのね。私って」
無理して作った笑顔なんか、佐藤さんにはちっとも似合っていなかった。やがて、ポツリポツリと語り出されたのは、紛れもない彼女の本音だった。