愛を欲しがる優しい獣
38話:スノードーム
ドーム型のガラスの中で白い雪が舞う。
私はベッドに俯せになって、鈴木くんがお土産にくれたスノードームを眺めていた。
ペンギンの親子が雪原の中を戯れている様子は、スノードームにぴったりで。
上下をひっくり返してみれば、季節は真夏だというのに幻想的な雪景色になった。
(鈴木くんにお礼を言わなきゃ……)
そう思っていても、携帯を握る手が重い。
どうしてもメールを送る気分になれなかった。
頭をよぎるのはラブホテルで押し倒された記憶で、消そうと思って消せるようなものではなかった。
眼鏡の奥の瞳はいつもよりずっと熱っぽくて、腕を振りほどこうともがいてもビクともしなかった。
……力強い男性の力だった。
思い出しただけで胸がドキドキして苦しくなる。
そして、安易についていった己を恥じた。
いくら夕飯の時間が迫っていたとはいえ、男性とラブホテルなんて行くのではなかった。
相手が鈴木くんだったから良かったものの、他の人だったらとんでもないことになっていたに違いない。