愛を欲しがる優しい獣
「姉さん、入るわよ」
ひとりで悶えていると、早苗が部屋に入ってきた。
「お風呂、空いたわよ」
風呂上がりの早苗は首にタオルをかけたまま、私のベッドを覗き込んだ。
「スノードーム?」
「鈴木くんがくれたの」
「へー。楽しくデート出来て良かったじゃない」
早苗は自分のベッドに座って、ガシガシとタオルで髪を拭き始めた。
10畳の部屋はベッドと勉強机をふたつ置いてしまうと、プライベートなスペースはほとんど作れず、互いの様子が丸見えになってしまう。
けれど、こんな話をする時は都合が良い。
私は自分のベッドから跳ね起きて、早苗の隣に腰掛けた。
「ねえ、早苗は好きな人っているの?」
「……いるよ」
「え!?私が知っている人?」
「秘密」
何度ねだっても、早苗は決して口を割らなかった。
自分のことよりも早苗の話を聞きたがっているようでは、鈴木くんと一線を超える日は遠い未来の話だろう。