愛を欲しがる優しい獣
46話:身内
「よう。謹慎になったんだって?」
仁志さんはこちらの許可を待つことなく、靴を脱いでずかずかと上がり込んできた。
人の話を聞かないのはうちの身内の特徴だった。
「謹慎じゃなくて、待機だよ」
仕方なく後ろを追いかけると、持ってきていた紙袋を掲げられる。
「ほら、差し入れ」
「どうも」
自宅待機のことはおそらく樹くんから聞いたのだろう。
紙袋の中身はワインとつまみだった。今日は店の定休日だった。休みなのを良いことにひとの家で腰を据えて飲むつもりだ、この人は。迷惑極まりない。
「グラスはどこだ?」
「グラスなんてないよ。紙コップ使ってよ」
「可愛くない甥っ子だな」
勝手に台所を漁っておいてぶつくさ文句を言う仁志さんをよそに、俺はリビングに戻ってゲームを再開した。
今日こそは全クリできると思っていたのに、とんだ邪魔者を招き入れてしまった。
こんなことになるのならベルを無視しておけばよかったとため息をつく。
何度も何度も鳴らされる音に耐え兼ねて、玄関扉を開けてしまったのが運のつきだった。