愛を欲しがる優しい獣
「俺はここでの暮らしが気に入っているから」
取り巻きに囲まれて偉そうにしているよりも、未知の体験に悪戦苦闘している方が良い。そんな自分も悪くない。
空虚な心を少しずつ新しい発見で満たしていけたら良いと思う。
ひとりで暮らし始めた時にはこんなに前向きになれるなんて思いもしなかった。
間違いなく佐藤さんの影響だ。ココアをあげた日から俺の運命の歯車は回り始めたに違いない。
「仕方ないか。可愛い彼女もいるしな」
仁志さんは諦めたようにワインを俺のコップに注ぎ足した。
「どうでも良いけど、あのフィギュアだらけの棚はやめた方が良いと思うぞ。ベッドに連れ込んだ時に、目が合ったら気持ち悪いだろう」
「うるさい」
(よけいなことを……!)
俺は仁志さんの顔をめがけて、クッションを思い切りぶつけてやった。