愛を欲しがる優しい獣
「お前さあ……」
「何?」
歯切れの悪い言い方に眉を寄せる。
こちらに話しかけられている暇はないのだ。戦況は刻一刻と変わっている。一瞬の隙が命取りになる。
言いたいことがあるならさっさと言えば良い。
「家に……戻るつもりはないのか?」
「ないよ」
ごくごくとワインを飲みながら、つまみにもらったチーズを口に放り投げる。
そんな簡単なことをなぜ改まって聞くのだ。実家に未練などない。
「兄さん、次の選挙も出るんだってよ」
「だから、戻るつもりも帰るつもりもないって」
あちらも勘当した息子が帰ってきたところで困るだけだろう。後継者なら親族や、弟子の内から選べば良い。
……俺は一度手にした自由を失うつもりはない。
「頑固だなあ……。誰に似たんだか」
「さあ、どこぞの政治家先生じゃない?」
椅子に踏ん反り返っている父親の姿を思い出して悪態をつく。