愛を欲しがる優しい獣

「俺、見てようか?せっかく誘われたんだから行ってきなよ」

「そういうわけにはいかないわよ」

いくら懐いているからといって弟妹の世話を鈴木くんに任せきりにして、自分一人だけ楽しめるはずがない。

「じゃあさ、櫂の練習試合の応援にでも行ったら?中学校ってすぐそこだろう?試合が終わったら櫂に交代してもらえば良いし」

よほど後ろめたかったのか樹がさも名案と言わんばかりに話を推し進める。

「じゃあ、そうするね」

鈴木くんも話に乗るから余計、性質が悪い。

「でも……」

「はい、決定!」

樹は高らかに宣言すると、早速櫂と話しをつけに2階へと続く階段を駆け上がった。

「もう!勝手に決めて……!」

口では文句を言うが、本当は怒ってなどいない。

鈴木くんと樹の好意を無視して、この提案を突っぱねることだってできたのだ。

結局、私だって心躍る甘い誘惑に勝てなかったのだった。

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