愛を欲しがる優しい獣

男の方は営業部の新人だった。

調子が良いことばかり言って勤務態度は不真面目だったので、どうもいけ好かないと思っていたのだ。

(あとで、渉に告げ口してやろう)

心の中でほくそ笑む。指導担当の渉にこってり絞られると良い。連日残業続きで渉は今、最高に機嫌が悪い。

厄介者の男性側に対して、絡まれている女性の方はテレビでも滅多にお目にかかれないような美人だった。

書類を腕に抱えたまま俯いている彼女の顔に、解れた栗色の髪がかかる。耳にかけ直すしぐさはまるで、一枚の絵のようだった。

「関谷、いい加減答えてくれよ」

男が言った“関谷”という名前でピンときた。

(そうそう、関谷さんだ)

佐藤さんをケーキバイキングに誘った後輩の美人さんだ。

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