愛を欲しがる優しい獣

「背中合わせなんだって」

「なに?」

ソファに座って陽のゲームの相手をしていた櫂が何事かを言いかける。

「クラスの女子が言っていたんだけど、恋に落ちる前の男女は背中合わせなんだって」

櫂はもう一度言い直した。

「恋に落ちたら相手の背中を追いかけるんだって。想いが通じれば、恋した相手も振り返って結ばれることができる」

いつの間にかおかずを盛り付ける手が止まっていた。

早苗も櫂の話に聞き入っている。

風呂上がりのひろむの髪の毛をタオルで拭いていた樹も同様だった。

「でもタイミングを間違えると、お互い好きあっていても背中ばかり見てしまうんだって」

櫂の話はすれ違う男女の心情をよく表していた。とても中学生同士の会話の中から出てきたとは思えなかった。

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