ストーンメルテッド ~失われた力~
咄嗟になり、彼はジュノの前に立ちはだかった。

ダークネスの神が、撃ったその弾丸は一直線にこちらへと向かった。

その弾丸が飛ぶ光景は、今まで見た中で最もスローモーションに感じるものだった。

そして......弾丸は、彼の手を貫通する。


ポタポタポタ......。


彼の痙攣する手から、その血は大量に溢れだし、地面に生い茂る真緑の草は真っ赤に染まる。

「くっ」

彼は、その強い痛みに歯を食いしばった。


目を開いたジュノは、見知らぬ若い青年のしっかりとした背中を見詰め、口を閉じることも忘れていた。

何故......救けたのか?

この疑問が、彼女の小さな頭の中で何度も飛び交う。

そして、再び銃を構えようとするダークネスの神々......。

その姿を見た彼は、痙攣している手をもう片方の手で、ゆっくりと下ろしながら言い出した。

「......よせ!」

よく通った、低音の声だ。

すると、口を開いたのは一人のダークネスの神族。

「その子は、俺の息子を......殺そうとしたんだ! 生かしてはおけん!」

彼を説得させようと、必死にそう言った様子である。

「っふ」

しかし、彼はその男の言葉を聞いた途端、鼻で笑った。

「何がおかしい」

「殺そうとした? ......馬鹿馬鹿しい。......ほんの一瞬、気絶しただけじゃないか。それに......」

すると、彼は口を閉ざし、何かを思うように一瞬、俯く。

そして、彼は両腰に装備していた二つの銃を取り出すと、ダークネスの神々の方へ構えた。

「......これ以上言わせるつもりか?」

そう言うと、彼は銃を一人の男の足元に撃った。

......バン!

その銃声が上がった瞬間、彼らは怯えだした。

腰を抜かす者、喚いて逃げ出した者、そして、痛めた足を引きずるようにして逃げ出して行った者......。

彼の銃の一手で、もう誰もいなかった。

彼の、深い茶色の髪はそよ風で微かに揺れた。

そして、彼は両手に持つ銃を両腰に戻す。

恐怖で身体を震わせながら、ジュノは立ち尽くしていた。

彼は、振り向きジュノに言った。

「大丈夫かい?」

そうして彼は、ジュノに向かい怪我をしていない方の手を差し伸べる。

警戒しながらも、彼女はゆっくりと彼の手に向かい自分の手を伸ばした。

その伸ばそうとした彼女の手を彼は、ぐっと握って来た。

すると、彼は笑顔になり言った。

「ようやく君に会えたよ。俺は、サンだ」

サンは、目と近い距離にある少し太めの眉毛に、この若さにして落ち着いた色気漂う顔立ちは印象的だった。

「それにしても、いい森だな」

そういいながら、サンは迷い森を見渡した。

その矢先のこと。霊鳥の鳳凰(ほうおう)は迷い森の遥上を飛んでいた。

鳳凰は、霊泉(れいせん)の水だけを飲み、迷い森の60~120年に一度だけ実を結ぶ竹の実のみを食物とし、梧桐の木 にしか止まらないのだ。

今日この日は、丁度、迷い森の竹の実は美味しそうに実っていた。それを求めて、鳳凰はやって来たようである。

しかし、丁度、二人のいる上空を飛んだ鳳凰は......真緑の草原に糞を落とした。

鳳凰は、その後も何事もなかったかの様に飛び立っていった。

その事にあたかも気付かない、サン。

サンは、こちらへ再び振り向き言った。

「君をアムール国へ送るよう、オーディン師匠に頼まれたんだ。さ、行こう」

そうして、サンは再び怪我をしていない方の手を差し伸ばして来た。

ジュノは小さな手を彼の手に重ねた。

すると、彼はジュノの手を握るとぐいっと引っ張り、踵を返すと歩き出した。
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