ストーンメルテッド ~失われた力~

物を吐き出し終え、トイレを流した。

こんなにも、気分が悪くなる料理は初めてだ──数秒、頭を抱え込んでいたが、おもむろに彼女は立ち上がり、トイレの個室を出た。

そうして、寂れた蛇口に触れる。しかし、相当寂れているようで、どんなに力を込めて回そうとも、水は出ない。

ギーッ......ギーッ。

そう、ただ、聞き苦しい蛇口の音をひねる音が女子トイレ中に響きわたっているだけだった。

「ひひひひひ......見てよ、あれ。......ひひひひひ」

「本当だ! ......あっははは。何あの、首。......あっははは」

背後で、二人の子供がジュノを見ては、笑っていた。

それは、蛇口から水を出すことに力を注ぐ姿を見て、笑っているわけではない様だ。

ジュノの後ろ首筋から自分達の姿が移りこんでいるのだから。

ジュノが少し動く耽美に動く黒髪から、ちらりと見える鏡の首筋......。

子供達にとって、こんなにも面白いことはまたとない。

しかし、それよりもジュノは蛇口から水を出すことに苦戦していた。手は、じんわり真っ赤に染まり、痛みが走る。

やっとの思いで、もう一ねじりしたところ、蛇口から水が出て来て、ほっとしたジュノは、力を抜き出て来た水をぼんやり、見詰めた。


この水は......色がおかしい。


泥が入り交じった様な汚らしい茶色だった。ヘドロのような、具合の悪くなるツンとした香りも漂って来る。

全く、今まで苦労して頑張って蛇口をひねっていた自分は一体何だったのか......?

そう考えながら、ジュノは蛇口を閉めると、こちらをニタニタを見てくる子供達を押しのけて、トイレから抜け出した。
< 83 / 171 >

この作品をシェア

pagetop