音色
 光の紹介は簡潔すぎる。
 でも、中にいたふたりは意に介さずの様子で、頷きでそれに答えた。

「りか。今日のふたり。ジョウとカラツグ」
 ぺこり。声など出ない。おじぎをするだけでいっぱいいっぱいだ。

 ステージ上で名前の紹介もあった筈なのに、利香はそのことすら覚えていなかった。

 カラツグ、さん。
 胸に名前を刻み込む。
 本名ではないだろうが、その不思議な響きを持つ名前は心の中にすうっと入っていった。

 この場は、誰が盛り上げ役とかそういう雰囲気はまったくなく、それぞれが好きなものを食べ、飲み、誰かが話を振ればそれにまた別の誰かが答える、といった感じで成り立っていた。

 利香はときどき振られる話に答えながらも、心の内では他ごとを考えていた。

 はす向かいに座る、寡黙なヴァイオリニスト。
 あの音にすっかり心を奪われてしまっていた。
 あのヴァイオリンをもう一度聴きたい。
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