雨の残照【短編】
「ねえ、ママーはやく!」
「待って待って、ママは疲れたわ」
公園に行きたいという娘を連れて、とある母親が夕暮れ時に訪れた。
幼稚園に入ったばかりの娘は元気に走り回り、あちこちを興味津々で見回す。
「もうすぐしたら帰るわよ」
「はーい!」
元気に手を上げて答えた娘に目を細め、梅雨の晴れ間にオレンジの陽を受ける紫陽花を見つめた。
次に空を見上げ、空き地に目をやる。
「あ」
ふと、見知った影が見えた気がした。でも、いるはずがない。
あの時のままの姿だなんてあり得ない。
夢のような出来事を懐かしむように小さく溜息を吐く。
「あら、綺麗ね」
気がつけば、あのときに見た残照が空に広がっていた。
決して忘れる事のなかった幻想的な風景は、雨の日に出会った青年を思い起こさせる。
左手薬指に輝く緑の石は、空を仰ぐ女性の顔をただ静かに映していた。
END
※作中に登場した一部の団体名や社名、武器関係などは創作に基づく物で実際のものとは関係ありません。
2014/07/15


