雨の残照【短編】
「わたしにはその価値はわかりません」

 幸せということも、わたしにはよく解りません。

 しかし、人にとって良いものだということは解ります。

 そう言った子供っぽい笑みに、なんだか心が安らぐ。

「あ」

「え? あ、雨が止んでる」

 青年の声に顔を上げると、雨はいつの間にか止んでいた。

 女性は傘をたたんで再び顔を上げたが、青年の姿はすでになかった。

「ちょっと、どこ行ったの?」

 周囲を見回しても人の気配はない。

 まさか夢だったのかと、もう一度手のひらを開いた。

 そこには、夕闇の迫る中でも輝きを放つ緑の石が小さく彼女を見つめていた。

 日は沈み空の雲は赤い光に照り映えて、とても美しく幻想的な空だった。




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