雨の残照【短編】
「風邪、引きますよ」

 言われて青年はキョトンと小首をかしげ、すぐに傘を女性に戻した。

「え?」

「あなたが風邪を引きます」

「でも」

「わたしは冷却しなければならない状況にあるため、ここを離れることは出来かねます」

 は? 冷却?

 何を言っているのか解らずに顔を覗き込む。

 柔らかい表情だが、どこか違和感を覚えた。

 青年の瞳は黒というより、とても深い緑色をしていて肩まである栗色の髪は濡れそぼり互いにまとまっているけれど乾けばサラサラなんだろうなと窺える。

「とにかく雨宿りしなきゃ。じゃあコンビニまで一緒に行きましょう」

「ありがとう。しかし、それは了承しかねます」

 変わらない笑みを向けて優しく応えた。

 喋り方のせいなのか、なんだかのらりくらりとされていて、少し苛ついてしまう。
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